2008年07月25日

予防線を張るメッセージ

相手の行動・行為が自分にとって問題がある場合、相手にそれをやめてもらう必要があります。その際、相手を批判したり、評価するのではなく、相手の行動・行為で、私はこう困っていると伝えることが、問題を解消するための、適切なメッセージです。

前者をYouメッセージ、後者を【Iメッセージ】と言います。 

相手の行動・行為を変えるには、この【Iメッセージ】を意識的に使う必要があります。

雑踏の中で足を踏まれ、「どこ見てんだ!」と相手を批判すれば、「なんだと!」と喧嘩になります。 そうではなく、単に「痛い!」と自分は痛かったという【Iメッセージ】を使うだけで、相手も「ごめんなさい」と言いやすくなるはずです。

会社であれば、例えば、部下が用意した会議資料に誤字脱字が多かったといった場合、

「君はミスが多いなあ。たるんでんじゃないか!」
「君は随分いいかげんな性格だな? それとも単にやる気がないのか!」

というような、相手を批判、評価したYouメッセージを使っては、
相手は表面的には謝罪したとしても、「うるぜー上司だなー」などと心で思い、積極的に改善しようという気にならないでしょう。または、ひどく落ち込んで自信を無くしてしまうかもしれません。

一方、「○○君、今日の資料だけど誤字脱字が多かったから、会議で説明する際、随分戸惑ってしまったよ。せっかくすばらしい内容の資料を作ってくれたんだから、誤字脱字などなければ、もっと説得力が増すし、私も自信をもって会議で我々の見解を提案できるんだ。」と自分は困ってしまったという「Iメッセージ」を伝えることで、相手との関係を悪くせず、相手も「申し訳ないことをした。次は気をつけよう」という気持ちになり、自発的な改善を促すことができます。


ただし、問題が発生するまで、わざわざ待っている必要はありません。
問題がなるべく発生しないよう、予防線を張っておけばいいのです。

例えば、人のパフォーマンスは、環境によって大きく左右されます。
ここでいう環境とは一緒に働く周りの人との関わり合いであり、「雰囲気」です。 
雰囲気がよければ、気分もいい状態で「快モード」に入り、人はもっとも能力を発揮します。
となれば、リーダーは、チームの雰囲気(環境)もマネージする必要があります。

チームの雰囲気に悪影響を与える問題が発生する前に、予防線を張っていくことが大切です。
メンバーのマインドや言動をポジティブな方向に統制していくためにも、リーダーとして、「こういう風に仕事をして欲しい。こういうことはして欲しくない」と、予防線の【Iメッセージ】を発信しておくことが効果的です。

この「予防線の【Iメッセージ】」の発信は、新任のリーダーとして、まず最初にすべきことではないかと思います。リーダーの価値基準を示すこのメッセージが、今後そのチームで仕事をする上で、マインド統制の機能を担います。リーダーの価値基準が見えないと、チームの雰囲気は、場当たり的な不安定な状態になります。また、予防線のメッセージもなく、いきなりリーダーから仕事のやり方やチーム内での言動に対して叱られても、メンバーとしても「いきなり何なんだ〜!」と理不尽に感じるかもしれません。 

私自身もリーダーの立場になったときから、自分の価値基準というか、自分のチームではこうあって欲しいいうことをさりげなく宣言するようにしています。 メンバーに自分の価値観を押し付けるわけではないですが、「少なくともこのチーム内においては、こういうことはして欲しくない」という予防線を張る意味でも、メッセージを送るようにしています。

ちなみに私の場合は、大きく3つのメッセージがあります。
 
@Be Responsible: 自分の担当は責任をもってやり抜くこと。 進捗ミーティングでは、「やってません!」はご法度。引き受けた仕事は、他人に協力をお願いしても、自分でやり遂げる。
A (Be Productive): 他人のヤル気を高めることも仕事のうち。非生産的な発言、他人の悪口を口に出さない。他人を批判することで、自分の優位性を主張する奴は、ダサいし評価しない。周りのメンバーのやり気を掻き立てて、サポートしてあげるのが正しい姿勢で評価する。
B (Be Proactive): 情報は常に率先してシェアすること。自分で抱え込まない。問題に気付いたらすぐに報告し行動する。悪い内容でも誰からも批判されない(Aより)。 早めに心配ごとは開示して、みんなで考える・サポートし合う。

こういった内容を、ことあるごとに、手を変え品を変え、言い方を変えてさりげなく繰り返し発信しています。

自分の価値基準やどうして欲しいかを常日ごろから言うこともせず、事後的に突然文句を言い出すリーダーは、自分の考えをメンバーが察しているはずと想定しているのでしょうが、それは、甘えというか怠慢だと思います。リーダーとしての「望むこと」「望まないこと」を事前に発信し、チームの形成にコミットすること。問題が起こる前に日ごろから「予防線の【Iメッセージ】」を送り続けることは、リーダーの不可欠なタスクであると思います。


<参考書籍>


日本メンタルヘルス協会でお世話なった先生の書籍です↓

* 上司の心理学―部下の心をつかみ、能力を高める (衛藤信之 氏著)

posted by IZ at 17:11| Comment(2) | TrackBack(0) | コラム
この記事へのコメント
はじめまして。
いつも、記事拝見させていただいております。Insight Nowからこちらのサイトに飛んできました。

コメントから質問して申し訳ないのですが、質問させていただきます。

現在、私には上司がいるのですが、
明らかに私の考えている会社の方向性とずれいます。この場合、上司の考えている方向性に従うべきなのでしょうか?それとも、私の信念を貫き通すべきなのでしょうか?
会社にはあまり魅力を感じませんが、仕事は仕事と割り切り、きっちりと成果を出したいと思っております。

私の信念を貫き通す場合、Iメッセージを発することで、上司をうまくコントロールすることは可能なのでしょうか?

いろいろと質問してしまい恐縮ですが、
お答えいただけたら幸いです。

宜しくお願い致します。





Posted by Mr X at 2008年07月25日 18:36
Mr.X様、

質問有難う御座います。

まず会社の方向性について、御自身の信念をお持ちであるということは素晴しいと思います。とにかく上から言われてることをやっとけばいいやという人も少なくない中、会社の方向性を真剣に考えられているというのは、かなり意識の高い方だと感じます。

さて、「Iメッセージ」ですが、これは上司→部下だけでなく、その逆でも効果的だと思います。もちろん、言い方はアレンジして頂きたいですが、「自分はこういうことをしたい」「私はこういう価値観で動いている」といったことを繰り返し発信しておくことは重要です。 ただし、この「Iメッセージ」が機能するには、条件があります。それは、「相手が自分のことを嫌ってないこと」「相手にとって自分は重要な存在であること」です。もし相手にとって、Mr.Xさんがそうであるなら、後は「Iメッセージ」をどんどん発信して下さい。

Mr.Xさんの場合、上司=会社の経営者なのでしょうか? そうでなく、Mr.Xさんの考える方向性=会社の方向性で、単に上司の考えがズレているならば、「Iメッセージ」を広く発信していれば問題は時間が解決してくれるはずです。もし、上司=会社の経営者で、方向性にズレがあるならば、「自分がこの会社で得られる経験・知識・人脈等は、自分の行きたい方向性にプラスに働いているだろうか?」という考えに焦点を当てて見て下さい。もしYesならば、まずは今の仕事から得られるものを最大化することにエネルギーを費やして下さい。もし、Noであるならば、もう一度自分の目指す方向性を再確認し、それにブレがないのであれば、よりプラスになる機会を探し始めましょう。

答えになったでしょうか?
いづれにしても、現状を変えたいと思うのであれば、これまでと違ったアプローチを試してみる価値はあります。そのひとつとしてまずは「Iメッセージ」を発信し始めることをオススメします。
Posted by IZ at 2008年07月26日 01:06
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