2008年08月01日

【知識デザイン企業】

デザインは単なるモノのカタチを作ることでない。本質な課題は、デザインを介在させ、企業や組織が内包する知力を解放することである。」

知識経営の考え方をベースに、「創造経済」の中での新しい企業・経営のあり方として、「アート・カンパニー」モデルを提言している書籍です。

概要:

〜新しい企業モデル「アート・カンパニー」とは〜

80年代から90年代の「品質経営」が限界を向かえ、世界は「創造経営に転換している。 これは、過去の延長線にとらわれずに新たな知を創造する力が必須な時代になったということ。

■ 技術ベースの工業社会モデルから脱するためには、美的な力としてのデザインが不可欠。そして直面する創造経済の中で、「アート・カンパニー」という新しい企業経営モデルへ移行していくべきである。

■ 「アートカンパニー」とは、知識デザインする企業知識デザインとは、知識創造×デザイン、つまり、モノの質だけに限らず、人間的な経験・プロセスの質をもデザインすることを意味する。

■ この「アートカンパニー」が、これからの創造経済の時代の「理想型」であり、未来を描くときのプロトタイプ的なイメージとなるだろう。

創造経済とアート・カンパニーの台頭〜

■ これからの創造性への挑戦とは、企業がいま起りつつある経営の知の変革、すなわちパラダイムの転換に、適切な組織へと生まれ変われるか、生存をかけた闘いである。

知識創造による技術・ノウハウ、環境変化に対する感受性を持ち、市場理解に基づく顧客価値の提供ができる企業だけが生き残れる。

■ 例えば、グーグルの創業者セルゲイとラリーは、アーティストたちを、いかに仕事(と遊び)に向かわせ、重要なイノベーションが自然と湧き起こるようにするかを、大変重視していたという。

■ また、社内に「最高文化責任者」(Chief Culture Officer)なる職種を設けて、フラットな組織、階層構造のなさ、協調環境などを維持し、チーム指向で、非常に協調的で、伝統に縛られない考え方を促すこと文化を形成している。

■ この創造経営では大きなパラダイムシフトが起こる。それは分析パラダイム」から「創造パラダイム」への不連続の変化である。

■ なぜ分析パラダイムがうまく機能しないかというと、まず分析パラダイムでは、分析して絞り込んでいくことで、「正解」に辿り着けると考える。だが、分析するためには、過去のデータが対象とし、ロジカルにひとつの答えを求めようとするが、固定的な「正解」に基づく実行戦略では、予測できない事態に対応できない。

■ 一方、「創造的パラダイム」とは、分析でなく「仮説」をもってビジネスに挑む。ただし、正解を当てようとして仮説を立てるのではなく、複数の方向性を考え、マルチ・シナリオ的な視点から戦略を考える、つまり、過去の分析から得る差別化を図るアプローチではなく、多元的な未来を見ていく目を持つというものである。

創造経済においては、イノベーションは「たまたま起こること」ではなくて、組織の日常の問題になっていく。それは、組織現場レベルにおいて、不断の創造革新を起こせるような、知識創造の型やプロセス、場やネットワークが、文化として組織に埋め込まれてなければならない。

20世紀を制してきた技術志向の品質カンパニーに代わって、21世紀の創造経済を引っ張るこの「アート・カンパニー」は、分析的方法論でなく、創造的方法論を組織戦略に埋め込んだ企業である。 

■ このような「アート・カンパニー」における創造的な方法論を、「知識デザイン(knowledge design)と呼ぶ。これは、従来の狭義でのデザインとは異なり、デザインとの関わり方、デザインの活用の仕方を転換し、デザイン組織の知として活用することである。


〜「モノ<プロダクト>」の概念が変化した〜

■ どうして日本のIT産業は遅れを取ってしまったのか。その原因は、多様な要素、離れた問題、バラバラに存在する知をネットワークし「綜合(synthesize)」して新たな価値を生む能力が多くの日本企業には欠如しているからである。

知識化とは、ハードを捨ててサービスに移行することでなく、ハード、ソフト、システム、サービス、ビジネスモデルなど、個別に部分として扱われてきた要素を綜合、まとめ上げる知的作業である。 知が分断され、知を結集する方法を知らない企業は、それゆえに未来創造の発想に至ることができない。

■ これからの「モノ(プロダクト)」の概念を変える3つの軸として、「時間」「感情」「社会」がある。

企業顧客の両者は一回きりの単発な商品の交換ではなく、時間軸に沿って、利用過程という経験として、知識と価値を「共創」していく。そこでは、「時間」が極めて重要となる。顧客との時間軸に沿った生産・消費プロセス共有/コラボレーションが生まれ、時間の進行に沿って価値(利益)が生まれる。

2つ目の新たな製品要素は、主観的なあるいは「感情」的な要素である。これまでの経済的・無機質的資質を重視する客観的・分析的な経営ではなかったが、創造経済の時代には、製品の感覚的価値・文化的価値などが問われるようになる。

■ それには、「製品に人間性を与える」「感情的要素を重視する」といった、従来の大量生産と大量消費型のモノと人間の関係からの脱却で必要である。

創造経済における製品の概念で、最も重要な軸となるのは、3つ目の社会性環境である。

企業が生態系を維持する製品や事業を展開したり、自然のシステムに倣った製品やサービスの仕組みを取り入れたり、自然に再投資することで、持続的な成長イノベーションが生まれる。

■ モノには、従来の経済性や機能に加え、環境・社会的・文化的価値がますます重要となり、その新たな綜合的能力としての知識デザインの方法論を中核に捉える経営が求められる。

■ このように、デザインは単なるモノのカタチを作ることでなく、デザインを介在させ企業組織が内包する知力を解放することが本質な課題である。


知識デザイン:知をオーガナイズする〜

■ 個人の主観や感情から湧き上がる創造性こそが価値を生み、成果を生む源泉となる。となると、創造性をいかに経営に活かせるかがこれからの企業の命運を左右する最大の要因となっている。

■ 創造経営において、サイエンスとアートの両方の力量が同じように問われる。それらは、別々に追求されるものでなく、2つの力が融合することで価値をまとめ上げることができる。当然そこには新たな方法論が必要となる。その新たな方法論の1つが知識デザインである。

知識デザインとは、製品やサービス、ビジネス、プログラムなどの資産としての知識を綜合し、社会や生活と技術やモノとの組み合わせを可能にするための知的方法論である。

■ つまり知識デザインとは、まさに「つなぐ」ことであり、諸要素を分断せず、コンセプトや審美的なイメージ、目標に向かって、境界を自在に行き来しながら多様な知を融合し価値をまとめ上げていく方法論である。

〜アート・カンパニーの条件〜

知識デザインの方法論の基本は、まず現場からの顕著な事例から仮説を立て(仮説推論)、それをモデル化・理論化し(演繹)、そしてそれが有効か否か、再び現場の実践を通じてたち現れる兆候を確認しながら、プロダクトビジネスの実体を形成する(帰納)、というプロセスである。

■ 単に見た目のデザインだけでは、一時的な差別化にはなっても、コモディテイ化の圧力の下では、持続的に価値を生むことはない。知識デザインにより、ブランド、ソリューション、経験デザインなどといった人間中心の「ソフトな知」を創造できるかどうか、企業のこれからのあり方が問われている。


デザイン」というキーワードから、プロダクトの形態デザインや一時期流行った「アフォーダンス」理論などの話と思い読み進めました。しかし実際は、「デザイン」を、モノのデザインというより、「情報や知識を綜合して新たな価値を生む、継続的な価値生産プロセス企業モデル」と捉えた話で、全体として少し複雑な内容ですが、非常に読み応えのある内容でした。
本書には、具体的な企業の例や知識デザインの方法論としての「パターンランゲージ」など興味深く刺激的な内容も書かれています。 

創造経済」の中で、自分が具体的に携わっている仕事、ビジネス組織がこれからどうあるべきか、じっくり考えながら、読み返したい1冊です。


posted by IZ at 14:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍
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